電話をかける度に、母は、どうしてこんな馬鹿なことしちゃったのだろう、と自分を責めていた。そこで、事件以降は、アメリカから電話をすると、母を元気づけることに専念した。
週に3−4日、時には連日、母親に電話をした。そして、母が自分を責める度に、色んな言葉で母を励ました。確かに失った額は大きいし、見知らぬ犯人に大金を渡したことを考えると気分がいいものではない。
しかし、命に別状がなかったわけだし、怪我一つせずこうして今話せていることは不幸中の幸いだ、と。
それでも母は、あー、もう私は死にたくなっちゃったよ、とよく話した。そして、父親に、お父さんが長年頑張って働いたお金を、私の不注意で失ってしまってごめんなさい、と、畳に手をついて謝ったと話してくれた。
でも、気にしているのは母親だけで、父親はさほど気にしていなかったし、まして母親に怒ってもいなかった。
詐欺だとわかった時には、ひどいことをする奴がいるもんだ、と言っていたが、それも数日の話。
実はその頃、父の認知症がかなり進んでいたのもあり、そして、元来能天気な性格もあり、本当に気にしていないのは見ていてわかった。
何しろ、ある日私が実家で一緒にテレビを見ていて、振り込め詐欺のニュースが流れたら、父が、
「全く、こんなのに騙される人いるのかね。」
なんて独り言を言っていた。私は冗談を言っているのかと思い、思わず振り返って父の顔を見た。そして、全く本気である父を見て、
笑いを堪えるのに必死だった。本当にこの人は全て忘れているのかもしれない!
実際、ひどい時は半日前の記憶が全てなくなっていることもあった。
でも、母親は違った。いつまでも、自分を責め続けていた。
そして、半年後、母は心臓麻痺で急死した。それは、突然やってきた。